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なんしょんな!!香川・PARTT
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「行政の役割」水は誰のものか/人の渡らぬ橋、車の走らぬ道/広い家 他
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なんしょんな!!香川・PARTU
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なんしょんな!!香川・PARTV
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「教育の危機」学校教育の危機/崩壊する家庭教育/的外れの企業内教育
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なんしょんな!!香川・Q&A BOOK
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「Q&A」行政の役割/水問題/交通問題/時事
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なんしょんな!!香川・Q&A BOOKU
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この本は、都村長生氏の政経塾「長生塾」とそのホームページに寄せられた質問に対し、都村氏が答えた内容をまとめたものです
800円+税
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKV
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この本は、当ホームページに寄せられた質問に対し、都村氏が答えた内容をまとめたものです。
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なんしょんな!!香川・Q&A BOOKW
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この本は、当ホームページに寄せられた質問(2003年5月〜2007年3月)に対し、都村氏が答えた内容をまとめたものです。
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なんしょんな!!香川・Q&A BOOKX
なんしょんな!!香川・Q&A BOOKX
この本は、当ホームページに寄せられた質問(2007年5月〜2008年12月)に対し、都村氏が答えた内容をまとめたものです。
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なんしょんな Q&A詳細

  • 【250】 電力事業における国と民間の役割(2012年6月20日) (高松市 教員K、松笠)

    日本の電力事業について、最近「発送電分離」という話が時々出てきます。以前のQ&Aの中で都村さんは「電力事業における国と民間の役割を分けるべきだ」という主張をされていましたが、発送電分離という事業内容を分ける話と、国と民間の経営を分ける話とは、どういう関連で理解すればよいのでしょうか。(高松市 教員K)

    東電の国有化に向けて公的資金1兆円を投入されるとの計画が発表になりましが、ビジネス感覚のない政治家が関与してこれまでうまくいった事例がないですが、この東電国有化について何が問題で、どうすればいいのか、このまま国有化されればどうなるのでしょうか?(松笠)

  • 話はそう単純ではない

     電力事業の国有化と発送電分離に関連するご質問を2ついただきましたが、私はこの話はほぼ同じ解に収斂すると考えていますので、まとめてお答えすることにしましょう。まず、電力事業のビジネスシステムを考えてみると、上流から発電(発電所を持って電気を作る)、送電(送電網とグリッドのオペレーション)、配電(グリッドから事業所や家庭まで電気を送る)の3つに分かれます。現在は、この発電・送電・配電のすべてを地域独占で民間の9電力会社が一貫して行っているわけですが、これら3事業をそれぞれ分離して別会社にし、自由化の上で競争させれば電力コストが下がるではないか、というのが「発送配電分離」の議論です。

     ここで注意しないといけないことは、「官民分離」と「電力の自由化」と「発送電分離」の3つを混同しないことです。今、日本では9電力が地域独占で発送配電を一貫して行っていますが、決して国営で行っているわけではありませんよ。従って、理屈で言えば、
    (1)国営でやるのか、民営のまま残すのか?
    (2)地域独占でやるのか、競争を認めるのか?
    (3)発電、送電、配電、のビジネスをそれぞれ誰が受け持つのか?
    で、2×2×3=12通りの組み合わせが存在するのです。話はかなり複雑なのですよ。

     この電力事業における発送配電分離と国と民間の役割分担についての私の考えは、結論から言えば、
    (1)発電事業は、原発だけを国有化し、その他の発電(火力、自然エネルギー等)は民間が行い、電力卸売取引所(以下「卸マーケット」)を通じて需給バランスから決まる市場価格で電気を売買する(なお、原発国有化の理由についてはQ218参照。ここでは繰り返し述べません)。
    (2)送電事業は、すべて国有化する。
    (3)配電事業は、すべて民間が行い、電力小売市場(以下「小売マーケット」)を形成し自由取引を行う。
    というものです。

     当然、国有化とは独占を意味しますよ。全体の構造は、図1のイメージ図を参照してください。

    日本における発送配電分離のイメージ

     私は、特殊な日本の電力事業の向かうべき方向としては「これしかない」と思っています。ただし、これを実現するためには、非常に困難な問題がいくつも存在します。私はその問題を解決するためのプロブレムソルビングに何度かトライしてみたのですが、理屈では解は出てくるものの、なかなか実行可能性に自信が持てなかったため、これまで公に結論を述べることを控えていました。

     ところが、原発事故以降にわかに出てきた「発送配電分離」を唱える識者や政治家やマスコミの主張を聞いていると、「発電と送電と配電事業を分離し、自由競争させれば電力事業のコストが下がり、国民がハッピーになる」という非常にシンプルなロジックだけで語られていて、私が考える「発送配電分離に際して派生する“非常に困難な問題”」については、ほとんど言及されていない。当然、それに対する解を出している人は皆無に近いのです。

     しかし、はたして発送配電分離とは、彼らの言うようなシンプルな話なのでしょうか? 分離さえすれば自由競争が実現するのでしょうか? そして、電力料金が安くなるのでしょうか? 私は全くそうは思いません。安易に手をつけると悲惨な事態になるとさえ思っていますよ。従って、このまま暴走して取り返しのつかぬ事が起こる前に、ここで私の考えを述べておきたいと思った次第です。では、今の日本の現状で発送配電分離を行うとどういう事態が想定されるのか? また、では悲惨な事態を避けるためにはどうすればいいのか? この2つを考えることによって、松笠さんの電力事業の国有化に対するご質問にもお答えできると思いますので、一つずつ考えていくことにしましょう。

    日本の電力事業の今後の目的は、電力の安定供給とコストダウンだ

     最初に、今後の日本の電力事業の目指すべき目的(達成目標)を改めて確認しておきましょう。まず第1の目的は、電力の「安定供給」と「ユニバーサルサービスの維持」です。電力の安定供給とは、要するに「停電してはいけない」ということ、また、ユニバーサルサービスとは、山奥や離島の一軒家でも必ず電線を引いて電気を供給する、すなわち「電気の来ない所があってはいけない」ということです。世界中でこの2つの目的を日本ほどきちんと実現している国はありませんよ。

     私はよく長生塾で冗談めいてこんな例え話をしていました。夏の高校野球甲子園大会の決勝で、同点で迎えた9回裏1死満塁、絶好のサヨナラのチャンスにバッターが外野フライを打ち、バックホーム、タッチ! その瞬間にパッと停電したら、皆さん、何分間、電力会社に抗議の電話を入れずに我慢できますか?(笑) 電力会社はクレームの嵐になりますよね。すなわち、「日本中どこにいても、いつでも、スイッチを入れると電気は必ずつながるものだ」というのが日本人の電力供給に対するメンタリティなのです。かつて話題をまいた『日本人とユダヤ人』という本の中で「日本人は水と安全はタダだと思っている」と指摘されていましたが、実はもう一つ、「電力」もそれに加えるべきだと私は思っています。

     しかし、世界の国々では全くそうではありません。中国やアフリカに限らず、貧しい国では停電は当たり前ですし、電気のない生活をしているところもいくらでもあります。また、アメリカやヨーロッパをはじめとする先進国でも、日本よりはるかに頻繁に停電します(欧米で自家発電が普及しているのはそのためです)。私が1990年代初め頃に日本とアメリカの年間停電時間を調べた時、一需要家当たりでは日本が約20分、アメリカが約200分という結果になりました。国民一人当たりだと、日米の差はこの2倍くらいの数字に拡大したと記憶しています。

     今はアメリカでも多少改善されていると思いますが、それでも日本の電力事業はアメリカと一ケタ違うリライアビリティ(信頼性、つまり安定供給)を実現している。これはまさに、日本の国民が異常に強く安定供給を求めてきたからに他なりません。ただし、そのためにコストも異常に高くついているわけですが、いずれにしろ「世界一の安定供給」を実現していることについては、日本の電力会社の努力は賞賛に値するでしょう。これらの背景から考えて、日本の電力事業において電力の安定供給とユニバーサルサービスの維持が最大の目的(国民ニーズ)であることは、誰にも異論がないでしょう。

     第2の目的は、電力事業のコストダウンの達成です。前述のごとく世界の先進国と比べると、金科玉条の安定供給実現のために日本の電気料金はトップクラスの高さにあります(アメリカや韓国の2倍以上、イギリスやフランスの約1.5倍。他国と比べて1.5〜3倍高い)。この高い電気料金が日本の産業の国際競争力を阻害する一因になっていることは、言うまでもないでしょう。かつて、アメリカの総合エネルギー取引企業であった悪名高きエンロンが日本に入って来た時、彼らが「もし日本の電力料金が25%下がれば、4兆円の経済効果が上がる」と言ったのを覚えていますが(確か新聞にも載ったはずです)、電気料金とは、それほど経済活性化に影響してくるものなのです。従って、国内産業の発展のためにも、電力事業のコストダウンは大きな課題となってくるわけです。

     一方、電力会社の経営の観点からも、コストダウンは喫緊の課題です。会社が利益を確保するための手段は、売上を伸ばすか、コストを下げるか、の2つですが、電力会社の「商品」である電力は、日本ではこれから人口の伸びが望めないこと、GDPの伸びもあまり期待できないこと(特に、大口の電力消費者である製造業ではどんどん海外移転が進んでいる)等を考えると、今後の大幅な売上増(電力の需要増)はほとんど見込めないという状況にあります。すると、ここでも残されたコストダウンが最重要課題となってくるわけです。

     従って、ユニバーサルサービスも含めた「安定供給」の維持と「コストダウン」達成の2つが、今後の日本の電力事業の最優先目的だと言えます。では、この2つの目的を念頭に置いて、発送配電分離を行った時の問題点をビジネスシステムに沿って一つずつ考えてみましょう。

    発電・・・今のままで発電事業を自由化しても競争は起こらない

     まず第1に、発電事業の分離の問題点から入っていきましょう。まず、今のまま発電事業を分離し自由化すると、どういうことが想定されるのか? 多くの発送配電分離論者のロジックは、「発電事業を分離して自由化すれば、異業種(製鉄業や石油精製業等、自社で発電プラントを有している企業等)からいろいろな発電事業者が参入してきて自由競争が起こり、結果、電力料金が下がる」ということのようです。また、行政に守られて利益を保証されてあまりに官僚的な憎らしい電力会社に怒りの鉄槌を、という「民意様」のやっかみから生じた“錦の御旗”も見え隠れしています。しかし、私は今のままで発電事業を自由化してもほとんど競争は起こらず、コストダウンにもつながらないと思います。なぜか?

     今、日本の発電会社はほぼ「地域独占」の状態にあります。例えば、四国の発電事業は四国電力が95%以上のシェアを占め、残りのわずか数%を1995年から参入が認められたIPP(Independent Power Producer)と呼ばれる独立系の発電事業者(石油会社、製鉄会社等)が細々と売電事業を行っている、という状態にあります。そこで、発送配電分離論者の目論見は「発電事業を自由化すれば、四国電力の発電部門と新規参入して来るであろうIPP事業者との間で電力卸マーケットを通じて自由競争が起こり、電力料金が下がるだろう」ということのようですが、ビジネスの常識では、こういう一企業が圧倒的シェアを持つという寡占マーケットでは、市場価格の決定に市場原理は働きにくいのです。なぜか?

     まず、石油会社や製鉄会社の発電部門は、基本的に自社で使う電気を発電するだけの設備しか持っていませんから、さらにその余剰電力だけを売電するとなると決定的に売電電力量が少なすぎて、とても量的に四国電力の競争相手とはなり得ません。話題の太陽光発電にしても、今、香川県で2カ所のメガソーラー計画が進んでいるそうですが、それぞれ発電電力量は年間200万kwhと言われ、四国電力の年間発電電力量約300億kwhの1万5000分の1(!)に過ぎませんから、これもとても量的には競争相手にならない。

     また、こういう寡占マーケットにおいては、フェアな価格競争も起こりません。弱小IPP事業者がいかに安く電気を提供しようが、独占企業となる四国電力が市場のプライスリーダーとなることは明らかなのです。例えば、弱小競合とバッティングする時(シェアにすればわずか数%分)だけダンピングして競合をつぶしにかかるとか(HIS、スカイマーク等の新規参入弱小航空業に対してJAL、ANAの行ったことがよい例です)、あるいは極端な話をしましょうか。もし、そういう自由競争マーケットで私が四国電力の社長であれば、例えば夏の電力需要が多い時に何か理由をつけて発電所を止める。すると、極端な電力供給不足になり、自由競争市場ですから電気料金は青天井に跳ね上がりますね。そこで発電所を再稼働して電気を売りにかかれば、巨大な利益を上げることができますよ。つまり、自由競争市場においても寡占企業が存在すれば、電力料金は圧倒的なシェアを持つ一企業の思うがままになるのです。

     かといって、IPP事業者が四国電力に対抗できるほどの発電設備を建設して戦おうとしても、そのためには発電所用地の土地買収から始めないといけませんから、莫大な初期投資と時間がかかり、とても投資が回収できるとは思えない。つまり、今の“巨象の周りに蟻が数匹”という極端な一社寡占マーケットでは、彼ら発送配電分離論者の言うような自由競争マーケットは形成されるはずがなく、電力のコストダウンなどできるわけがないのです。

    唯一自由競争原理が働くとすれば、電力会社間の競争が起こった時だが・・・送電ハイウェイの必要性

     では、発電事業に自由競争を起こす方法はないのか? 唯一あるとすれば、それは9電力会社間の競争が起こった場合でしょう。つまり、四国電力と中国電力、あるいは関西電力、九州電力、中部、北陸電力等との間で競争が起きた場合です。具体的には、ユーザーが四国電力や中国電力、関西電力等と自由に契約できるという市場ができれば、“巨象と蟻”ではなく“巨象同士”の競争になりますから競争原理が働き始め、品質の向上や価格の低下が起こることになるでしょう。

     しかし、電力会社間の競争を起こすためには、クリアしなければならない2つの難しい課題があります。第1は、技術的な問題です。現状では電力事業には「送電距離が長くなればなるほど送電ロスが大きくなる」という、電気という商品の特性から来る問題があります。つまり、中国電力や関西電力が四国の電力ユーザーに電気を送ろうとすると、送電距離が長くなって大きなロスが発生し、送電ロスの少ない四国電力に対して致命的なハンデが生じて、競争にならなくなってしまうのです。

     ただ、この送電のロスを解消するための技術的解は、実はあるのです。今、電気はすべて交流(関西は60サイクル、関東は50サイクル)で送電しているのですが、この交流仕様というのが送電ロスの原因になっているわけです。つまり、交流は電圧を変える時のロスが少ないが、送電の際、静電容量やインダクタンスから生じるリアクタンス成分のため不安定になり、長距離送電に向かないのです。従って、直流変換器を作って直流で送電するようにシステムを一新すれば、技術的にはロスの少ない長距離送電が可能になる。

     しかし、それにはかなりの初期投資が必要になり、「誰がそれをやるのか?」という大きな問題が出てきます。まず、今の電力会社は命綱である地域独占制を崩したくないわけですから、絶対にそんなものには投資しません。だから、今の9電力会社間の電力相互供給送電ラインは信じられないほど“細い”のです。また、東日本と西日本では周波数が異なるため、東と西では送電ラインがほぼ断絶している。では、全ての電力会社の猛反対を押し切って、国が強制的に電力会社にやらせるのか? あるいは国が全ての電力会社の猛反対を押し切った上に国民の合意を得て、税金でやるのか? そのための「解」が必要なのです(私の解は後述します)。

     従って、電力会社間競争を起こすためには、先述した関東と関西の周波数の違いと、各電力会社間をつなぐケーブルの細さを解消する必要が出てきます。そのうち周波数の違いについては、全国の電力会社間の競争を起こすのではなく、西日本プロックと東日本ブロックの2つのエリア内でそれぞれ競争させれば何とかなると思いますが、9電力会社間のケーブルの増強については、「誰がやるのか?」という根本的な問題に当たってしまいます(もちろん、各電力会社は今の飯のタネの地域独占体制を壊すような相互送電網構築への投資などやりませんよ)。

     しかし、繰り返しますが「発電事業を分離して自由競争させ、コストダウンをはかる」という目的を達成するためには、9電力会社間の競争を起こさなければどうにもならない。そのためには、北海道電力から九州電力まで9電力を繋ぐ日本縦断直流送電ライン(これを仮に「送電ハイウェイ」とでも名付けておきましょう)の設置が絶対条件なのです。この難しい問題について、今の発送配電分離論者の方々はきちんと解を持って主張されているのでしょうか? 私には、とてもそうは思えませんが・・・。断言しますが、今の地域独占のままいくら新規発電業者(IPP)の参入を募っても、また、いくら電力卸マーケットを作っても、全く機能しませんよ。

    負荷率を上げればコストダウンできるのだが・・・

     次に、発電事業のコストを高くしているもう一つの技術的問題を指摘しておきます。それは、前述の「送電しにくい」という問題に加え、「電気」という商品のもう一つの特性である「電気は在庫が効かない」という問題です。そのため、今の電力会社は電力使用量のピークに合わせた発電設備能力を持たざるを得ない、という非常に効率の悪い経営を余儀なくされているのです。具体的には、1年の間では暑い夏の8月が最も電力需要が大きく、4月、5月といった需要量の少ない月に比べて1.5倍くらいになる。また、1日の間でも、ピークの午後2時頃と夜中とでは2倍以上の需要量の差がある。しかし、電気の大量在庫ができないため、電力会社は最大需要時(8月の午後2時頃)でも安定供給ができるような発電設備能力を持たざるを得ないわけです。

     その結果、日本の電力会社の発電設備の負荷率(一般装置産業で言う稼働率)は、年間平均すると50数%しかないのです。ちなみに、ヨーロッパやアメリカの発電負荷率は70〜80%近くあると言われています。日本には四季があり、湿気も多いこと、あるいは国民全員がクーラー等に代表される電気をベースとした豊かな生活スタイルを実現していること等の条件の違いはありますが、それらを差し引いてもこの負荷率の差は大きい。私が携わっていた石油プラントの稼働率は92〜93%くらいでしたが、業種が違うとは言え、装置産業において50数%の稼働率でビジネスが成立するはずがない、というのがプラントエンジニアの第一感です(高松中央病院が高い医療機器を導入してほとんど使われていないために利益が出ないのと同じ話です・Q181参照)。

     すると、日本の電力会社は負荷率を上げるだけですぐに大きな利益が出る、言い換えれば大幅なコストダウンができるはずなのです。一説によると、日本全体で電力会社の負荷率を1%上げられると年間1500億円くらいのコストダウンができると言われています。すると、ヨーロッパやアメリカの70〜80%まで行かずとも、あと10%くらい負荷率を上げられれば、何と1兆5000億円のコストダウンが実現するという計算になる。そして、それは少し知恵を出せば十分可能だ、というのが私の意見です。では、どうすればいいのか?

     電気の在庫というのは、要するに蓄電設備の問題ですね。まず、日間変動分の対策から入りましょう。負荷率を10%上げる程度であれば、午前10時から午後8時くらいまでのピーク時に一部だけをカバーできる程度の蓄電設備があれば十分可能でしょう。そういう話をすると必ず「そんな巨大な蓄電池を作るのは不可能だ」と言う人が出てきますが、何も発電所に巨大な蓄電池を作る必要はありません。日本中の家庭や事業所に小型の蓄電池を置けばいいのです。

     そして、各家庭や事業所で夜のうちに蓄電し、次の日の昼にそれを使い切る。また夜に蓄電し、翌日の昼に使い切る・・・それができるように、家庭や事業所で1日に使う電力の10%くらいを蓄電できるキャパシティを持った蓄電池を開発すればよい。蓄電技術自体はすでに完成された簡単な技術ですから、あとはどれだけ小型化して安くできるかだけです。これが普及すれば、電力会社はピーク時の送電量を抑えることができ、負荷率は確実に上がって大幅なコストダウンが可能になります。太陽光発電なんかよりずっと筋がいい解だと思いますよ。

     ただし、これにも大きな問題が立ちはだかります。すなわち、「誰がその蓄電池を開発(投資)し、普及させるのか?」という問題です。まず、電力会社は絶対にそんなものには投資しません。それが負荷率を上げてコスト削減につながるとなっても、お金と時間をかけて投資することはないでしょう。なぜなら、日本の電力会社はコストがいくら高くても利益が出るというシステムになっているからです。

     今、電力会社の収入源である電気料金の決め方は、「総括原価方式」と言って、前年度にかかったコストに適正利益を載せて今年度の電気料金を決める、という方式が法律で認められています。つまり、安定供給を守るために、電力会社は絶対に損をしないように(経営破綻をしないように)なっているわけです。言い換えれば、この「総括原価方式」と「地域独占」の2つの仕掛けで、日本の電力会社(株式会社)は株主の求める「利益追求」と国民への「安定供給」という相矛盾する目的概念を両立させ得たと言えるでしょう。従って、いかに負荷率が低くてコスト高であっても、今の日本の電力会社にはそんな蓄電池を開発する必要が全くないということがおわかりでしょう。

     もしやるなら、開発側にインセンティブ(税的恩恵)をつけるという方法はあるでしょう。例えば、「電力契約者は必ず発電会社からこの蓄電池を買わなければならない」というルールを作り、発電会社が蓄電池を開発製造すれば必ず儲かるようにする。あるいは、買う側に対して「買った方が得になる」というインセンティブをつけ、「開発製造すれば必ず売れる」という環境を作るという方法もある。国が税金で開発するというのも一つの選択肢かもしれません。しかし、いずれにしても「何かのインセンティブ(税的恩恵)をつけない限り動かない」ということ自体、「発電の負荷率を上げてコストダウンをはかる」という目的に対して正常なドライビングフォースが働かない、と言わざるを得ないのです。これは「再生エネルギー法案」でも述べた通りです(Q219参照)。

     私は、こうすればよいと思います。まず、発送配電分離後、9電力の発電事業者及びIPPがファンドを出し合い、蓄電池開発コンソーシアムを立ち上げる。目標は5万円〜10万円の家庭用小型蓄電池開発で各家庭年間1万円くらいの電気料金削減を目指す。そうすると7年ペイアウトくらいになりますから、必ず売れる! そして、この商品を各配電事業者や電力プロバイダーが各家庭に売り込む。そうすれば、小売りマーケットでの消費者との電気契約獲得競争において強力なマーケティングツールとなり、まさに一石二鳥と言えます。

    送電・・・送電事業は自然独占となり、競争は絶対に起こらない

     では、第2番目のテーマ、送電事業の分離です。最初に、送電ビジネスのサイズを確認しておきましょう。皆さんは、今の電力会社を発電、送電、配電の各部門別に別会社に分けた時、どこが一番大きな会社になると思いますか? それは発電所を持っている発電部門だろう、と思ったら大きな間違い、一番は断然、送電部門なのです。

     電力会社のバランスシートを見ると、左側の「総資産」のうち、発電部門の資産価値はせいぜい3割くらいで、あとの6〜7割は送電部門の資産です。また、コストも断然、発電の燃料費等より送電設備のメンテナンスコスト(送電線の整備等)の方が圧倒的に高い。冒頭にお話しした「世界一の安定供給」を求められてきた結果、送電部門はものすごく高品質の部品を使い、ものすごく手間暇をかけたメンテナンス体制を敷いているからです。従って、発送配電を3分社化すれば、おそらく送電部門が6割、発電部門が3割、配電その他で1割、というサイズになると思われる。すなわち、「巨大送電企業」が生まれることになるのです。すると、何が起こるのか?

     まず、送電事業を自由化したとしても、そこで自由競争が起こることはあり得ません。なぜなら、新規参入者が新たに全国に送電線を引いて送電事業を始めるなどということはあり得ないからです。鉄道、高速道路、電話線、通信線等、誰かが最初にラインを1本引いてそれがユーザーのニーズをほとんどカバーしている場合、2本目を引く人はまず出てこない。そういう状態を「自然独占」と呼んでいますが、送電線は、その自然独占の最たるものだと言えます。

     そして、自然独占が起こる分野を民間企業に任せると、競争が起こらないだけでなく、マーケットが必ず歪んでくる。すなわち、そのインフラを独占をした企業の思うがままのマーケットになってしまうのです。例えば、巨大送電企業が「電気を送らない」と言えば、発電会社はどうしようもない。「送電料の値上げをする」と言われても、逆らえば「電気を送らない」の一言でどうしようもなくなる・・・等々。

     実例を一つ挙げましょう。かつて、日本の電力行政においても「電力は自由化に向かうべきだ」という考え方が出てきて、1995年と99年に電力事業法が改正されることになりました。まず、95年の改正でIPP(独立系発電事業)が認められ、「自分で発電設備を持って発電事業に参入してもよい」という法律ができました。続いて99年には、IPP事業者が電力を大口ユーザーに1対1で相対取引で売電してもよい、ということになった。要するに、石油会社や製鉄会社等の自前で発電設備を持っている企業を中心に、電力事業への新規参入を促そうとしたわけです。すると、どうなったか?

     製鉄会社等の発電機は、電力会社の発電機よりはるかに安く効率よく作られています。電力会社は社会から異常に高いレベルの安全性と安定供給を求められていますから、私に言わせればオーバースペックの高価な発電機を使っているのですが、製鉄会社等はもともと自社用の発電ですからそんな無用の縛りがなく、電力会社と同じ性能の発電機なら半額以下の投資額で作っているはずです。そこで、「ウチなら安い電力を作って売れる」ということで、多くの企業がIPP事業者として電力事業に参入しようとしたのです。

     ところが、そこで問題が起こりました。IPP事業者が売電するためには、自社の発電機からメインの送電線まで電線をつながないといけないのですが、送電線を握っている電力会社が「メインの送電線までの電線はウチの線は使わせない。IPP事業者が自分でつけろ」と言ったのです。そのためには、土地を買収して電柱を立て、電線を張らなくてはならない。しかし、一民間会社においそれとそんな投資ができるはずがありません。その結果、多くのIPP事業者は電力会社の“嫌がらせ”に屈して発電事業を断念せざるを得なくなった・・・。

     結局、自然独占のインフラを持つ民間企業は、そういう嫌がらせがいくらでもできるわけです。これは電力事業に限った話ではありません。例えば、通信事業では「電話線」という自然独占のインフラを持つNTTがソフトバンクに不利な使用条件を強いて、ソフトバンクが対抗措置をとる等でもめていますね。あるいは、航空業界では「航空機のメンテナンス、パイロットの育成システム」といった自然独占インフラを持つ日本航空と全日空が、新規参入航空会社であるスカイマーク等に数々の嫌がらせをして競争を妨げてきたことも、以前にお話ししました(Q189参照)。いずれにしろ、こうした自然独占が起こる状態にある業界ではフェアな競争原理は働かない、ということはおわかりいただけたと思います。

     余談ですが、この自然独占の考え方を応用していくと、新たな成長の種も出てきますよ。例えば、羽田から成田へ行くのに今、京急と都営浅草線が相互乗り入れしていますよね。つまり、一本の線を官民2社が共同で使っている。それなら、新幹線に京急が乗り入れてもいいじゃないですか? 東京から大阪に行くのにJRでも京急新幹線でもいい。ただし、線は1本ですよ。そうすれば、JRと京急の間で健康な競争が起こり、運賃も下がり、サービスレベルは上がる。「鉄道というものは社会全体のインフラ資産だ」という発想さえあれば、日本でもまだまだビジネスの種はありますよ。それが私の言う「規制緩和」なのです。

    送電事業はコストセンターとして国営化するしかない

     では、自然独占によって競争が起こらない状態にある送電事業で、健全な事業運営を行うにはどうすればよいのか? また、競争のない状態でコストダウンするにはどうすればよいのか? を考えてみましょう。まず、前述のように、自然独占状態にある事業が利益を追求すると必ず不当競争が起こり、マーケットが歪んできます。加えて、「利益の出ないような場所(山奥や離島)には電線を引かない」等、日本国民が求める安定供給とユニバーサルサービスも達成できない恐れも出てくる。そう考えると、送電事業は利益を目的とする民間企業がやるべきではない、という話に帰結せざるを得ないでしょう。

     従って、冒頭に示した通り、送電事業は全て国有化し、利益を追求しない「コストセンター(非営利団体)」(以後、仮称として「送電公社」と呼ぶことにします)として国が運営すべきだ、というのが私の意見です。送電網は、道路等と同じような「社会インフラ」だと定義すべきでしょう。『なんしょんな!香川』で述べた通り、送電線は「安全」と「交通」確保に関する最たるものですから、当然国がやるべき専管事項なのです。そして、発電事業者は送電線使用料を払えば誰でも平等に使用できるようにすれば、少なくとも最低限の新規参入障壁は取り除くことができるでしょう。経営体制としては、第三セクター方式や○○機構のような組織等、選択肢はいろいろあると思いますが、とにかく民間にやらせることだけは避けるべきでしょう。

     ただし、大切なことは、この「送電公社」には政治家と既存の官僚を絶対に入れないことです。先述したように、この送電事業は巨大な独占企業となりますので、そこに政治家と官僚を入れると、間違いなく“利権の塊”となってしまうからです。イメージとしては、経営陣は全員民間からリクルートし、他産業の思惑の入る経済産業省から切り離した「エネルギー庁」のような管轄省庁のもとで、第三者機構として運営される・・・ということになるでしょうか。いずれにしろ、この送電公社は日本のエネルギー問題の重要な部分を占める電力事業の根幹となりますから、国がきちんと関与しておかなければならないのです。

     もし、この送電公社ができれば、前述の日本縦断直流送電網(送電ハイウェイ)の増設は当然この組織の最重要ミッションとなってきます。私に言わせれば、発電ビジネスへの新規参入障壁の軽減よりも、この送電ハイウェイ設置の方がずっと優先順位が高いのです。なぜか? 先ほどは家庭用蓄電池による需要の日間変動の吸収策を述べましたが、この送電ハイウェイによって、前述の季節間の電力供給能力調整が可能になり、負荷率が大幅にアップできるからです。例えば、東京が猛暑の夏、冷夏の北海道電力から東電に売電してやればよいではありませんか。送電ハイウェイができれば、それが可能となるのです。まだまだメリットはありますよ。例えば、悪評高い直近の東電の料金値上げの際、電力卸マーケットで東北電力が「私がもっと安く提供できます!」とビットを出せばどうなるか? この送電ハイウェイが発電コストダウンの要となってくるのはおわかりでしょう。

    送電事業のコストダウンは目標管理で行う

     次に、送電事業のコストダウンを考えてみましょう。前述したように、今の電気料金の決め方は安定供給を守るために「総括原価方式」がとられています。すると、この「送電公社」も、やはり安定送電の確保ために総括原価方式で「送電料」を決めるのがいいと思います。ただし、今の送電事業は、国民の過剰な安定供給の要請に応えるために設備もオペレーションルールもかなりのオーバースペックになっており、きちんと絞れば濡れ雑巾のように無駄が絞り出てきます。

     この無駄を絞り出す方法は、そう難しくありません。例えば、「送電公社」からエネルギー庁に、総括原価方式で出てきたコストに利益を乗せた金額で次年度の送電料の要求が出てきます。その時、上乗せ利益分をカットして「昨年度のコスト分相当の送電料でやりなさい。利益を出したければ、コストダウンで利益を生み出しなさい」とする。あまり絞りすぎるとクオリティが落ちてくるので、次の年度はコストダウン幅を少し少なくし、これを時限立法で3〜5年くらい行えば、適正コストに落ち着くはずです。ただし、ここでもコストダウンの目標を与える権限機関が必要になりますので、「エネルギー庁」のような国の管轄省庁が不可欠であることは言うまでもありません。

     もう一点、この送電公社のカバーすべき大切な機能を述べておきます。何十を超す発電会社が電力卸売マーケットで自由に発電事業を行うわけですから、以前の地域独占の時とは違って需給のズレに対するコントロールが効かなくなってくることが考えられます。つまり、事前に各社と契約された電力供給契約から実際の需要が上方にズレた場合どうするか? というような問題です。この公社がどんなに発電状況をモニターし需給予測をしていても、こういう想定外のケースは必ず起こります。そのためには、誰かがバックアップ用発電能力を持っておかねばならない・・・それは当然、この送電公社の役目となってきます。また、当然、ユーザーに対する最終の供給責任もこの公社が持つことになりますよ。国営とはそういうことです。

     以上、送電部門について問題点と私なりの解を示してみましたが、ここでも一筋縄では行かない大きな問題がいくつも含まれていることがおわかりだと思います。つまり、この送電公社が日本の電力事業自由化のカギとなることは皆さんおわかりですね。日本政府のエネルギー戦略に基づいて各発電事業者をコントロールし、各電力マーケットと発電能力の調整を行い、自身でも送電ハイウェイを建設し、コストダウンを実現する、しかも、官僚と政治家の思惑を排除して・・・私の一番の気がかりは、「はたしてそんな素晴らしいスーパーリーダー(ビジネスマン)が本当にいるのか?」ということです。そして、繰り返しますが、今の発送配電分離論者の主張の中にはこうした問題に対する解が全く見当たらない。どこまでわかった上で発送配電分離を主張されているのか、甚だ疑問に思わざるを得ない、というのが私の正直な感想です。

     ちなみに、最後の配電事業については、民間で完全自由化すれば、既存の電力会社系の配電会社以外に各家庭にきめ細かな配電サービスを提供できる配電プロバイダー等の事業者が参入してきて一般ユーザーを奪い合う自由競争が起き、電力小売市場が形成されると思いますので、ここではそれ以上の議論は必要ないでしょう(図1参照)。

     卸マーケット・・・自由競争のマーケットをなめてはいけない

     次に、発送配電分離論者の方々がその目的とされている「自由競争の電力卸マーケット」について、私の意見を述べておきます。最初に、事例を一つ挙げておきましょう。1996年から98年にかけて、アメリカ・カリフォルニアで電力の自由化政策が行われました。その際、実際に起こったことです。

     カリフォルニアで実行された政策の中心は「発電事業と電力販売事業を分離して自由競争させる」というものでしたが(今の日本の発送配電分離論と同じような内容ですね)、自由化による既存大手2社の電力会社(日本の地域電力会社と同じようなものだと思って下さい)の収益悪化を危惧した州政府は、当面のその大手2社電力販売会社の販売する小売電気料金を96年の実勢価格より10%低めで固定しました。それまで日本と同じ総括原価方式で保証されていた投資回収計画が自由化によって狂ってくるので、そのサポートのために、自由化によって当然下がってくるであろう予想小売価格(96年の実勢価格より10%以上低くなると予想されていた)よりもずっと高めに設定して利益補填をしようとしたのです。

     一方、自由化により電力販売会社は発電会社で構成される電力卸マーケットから電力を購入することが義務づけられました。また、カリフォルニアでは過去、環境保護主義勢力が強かったこともあって、電力会社は新しい発電所の建設が全く進んでいない、一方、シリコンバレーに代表されるIT産業が立ち上がり、電力需要が伸び始めているという状況にありました。その結果、何が起こったか?

     小売価格に統制を入れ、卸売マーケットだけを自由化する・・・この前提条件を見ただけで、長生塾生の皆さんはすぐに「悲惨なことが起こる」ことがおわかりですね(Q1参照)。案の定、まず発電会社が、厳しい環境規制で高コストになるため、新規発電所の建設に消極的になっていた。一方、産業用の電力需要は伸びる。必然的に、慢性的な電力供給不足が起こり、そこへ猛暑が来て電力需要が急増した。ただでさえ電力不足のところに需要が増大すれば、自由競争のマーケットにおいて電気料金はあっという間に高騰します(実際、最大自由化前の50倍まで跳ね上がった!)。しかし、大手2社系の電力販売会社はその高騰した電力を卸売市場から購入しなければならないにも拘わらず、小売売電料金が凍結されているため、逆ざやが発生してたちまち経営が悪化し、停電を繰り返した後、とうとう大手電力会社の一つが倒産寸前まで行き、政府から緊急資金援助を受けるという事態に陥ったのです。

     この事例の中に、日本が今の状態で発送配電分離を行って自由競争させた時に起こりうる大きな問題が、いくつか含まれています。まず第1、自由競争マーケットというのは、「需要と供給がある程度の幅の間で均衡している」という条件があって初めて適正な市場価格が決まる、ということです。現実的には供給量が需要をやや上回っているくらいが、供給側に健全な競争が起こってうまく行く。しかし、このバランスが崩れて需要が供給を大きく上回ると、カリフォルニアの例のように価格は急上昇し、収拾がつかなくなる。逆に供給が需要を極端に上回れば、激しいダンピング競争が起こってこれも収拾がつかなくなる、というのが自由競争マーケットの宿命です。

     では、今の日本の電力市場の需要と供給はどういう状態にあるのか? 「民意様」が“羮に懲りて膾を吹いて”しまい、原発を全て止めてしまった今、日本の電力需給は明らかに供給不足の状態にあります。事実、この夏の電力不足に対する懸念は深刻で、厳しい節電要請に加え、計画停電の話も出ているありさまです。かといって、代替エネルギーへの切り替えも一朝一夕にできる話ではない(Q209参照)。脱原発の状況下では、この供給不足の構造は10年単位で続くでしょう。

     すると、こんな状態で電力を自由化すれば、電気料金が高騰するのは火を見るより明らかです。それが自由競争マーケットなのです。しかし、今、発送配電分離及び電力の自由化を主張している人の多くは、同時に「脱原発」も主張しているのではありませんか?(菅直人氏も橋下市長も「発送配電分離、脱原発」を主張していますね)。無知というのは恐ろしいものです。彼らは電気料金を青天井にしようというのでしょうか?

     第2、自由競争マーケットに価格統制を入れるとマーケットが壊れる、ということを考えねばなりません。ということは、日本の場合、発送配電を分離して電力の自由化を進めるのであれば、あの太陽光発電等の電力を決まった値段で電力会社に買い取らせるという「再生エネルギー法案」を全て廃止しなければならない。でも、あのバカな法律の推進者が一方で発送配電分離を声高々に訴えている。この国は一体どうなっているのでしょう。

     私は、あの日本を滅ぼしかねない悪法の廃止には双手を挙げて賛成します(Q219参照)。それが自由競争原理導入の大前提だからです。しかし、それにきちんと言及している識者にもマスコミにもお目にかかったことがありません。彼らはマーケットというものを全く理解していないのではないでしょうか? そんな輩が「自由化しろ、発送電分離しろ」と叫んでいるのが現状だと知って下さい。

    原発を国有化し、電力のベースロードとしてマーケットを安定させるべきだ

     ただ、「解」はありますよ。では、「需要と供給がある程度の幅の中で均衡している(その上で供給が需要を少し上回る)」という条件を整え、電力卸売マーケットを健全に機能させるためにはどうすればいいのか? それを考えてみましょう。まず第1に、それには発電会社から原発を切り離して国有化し、それをフル稼働して電力のベースロード(最低限の変動することのない稼働部分)にするしかない、というのが私の意見です。日本の総発電電力量の30〜40%は国が責任を持って原発で安定供給を行い、残りの60〜70%のピークロード分については自由競争マーケットに委ねる。この「マーケット全体の30〜40%の電力供給は絶対にあります」というベースロードは、マーケットの安定に非常に大きな効果があるのです。ただ、「民意様」のお気に召すかどうかは知りませんが。

     第2に、電気の売買に関しては、いろいろな取引商品を作る必要があります。こんなことは誰も考えていないのではないかと思いますが、例えば3時間以内の超短期の需給調整取引商品や、24時間以内の短期取引商品、1日、2日・・・あるいは長期の先物取引等々、数多くの取引商品を揃えてお互いに牽制させ合い、「大数の法則」が働くようにしておかないと、マーケットが大きく揺れる恐れがあるのです。

     もう一つ第3、この卸売マーケットへの参入は強制ではなく、自由参入にすべきだと思います。つまり、先のカリフォルニアの例のように「この電力市場でしか売買してはいけない」とするのではなく、電力マーケッター(発電装置を持たず、各発電事業者から余剰電力をスポットで仕入れ転売する)や発電事業者等は特定の大口ユーザー等の消費者側と1対1で相対取引契約を行ってもよい、とするのです。そうして売買窓口に少し自由度を設けておくことも、マーケットの大きな揺れを防ぐための方法なのです。第4、前に述べた通り、卸、小売マーケットにおける価格の統制は絶対に排除すべきです。従って、これらをまとめれば、図1のような構造になると思います。参考にして下さい。

    原発と送電部門を国有化する、もう一つの理由

     最後に、「原発と送電部門を国有化すべきだ」という私の主張のもう一つの理由を述べておきます。それは、電力会社の経営体質の改善のためです。今、電力会社のバランスシートを見ると、大量の社債発行による借金体質が一目瞭然です。9電力の合計売上は約15兆円ですが、借金の合計は30兆円を超えている。普通の装置産業では総資本回転率100%(総資本と売上高が同じ)が常識なのに、電力会社の総資本回転率は40%くらいしかないのです。また、流動比率は20%強(通常企業は120%)、つまり、資金繰りは自転車操業なのです。

     すると、この借金体質、綱渡りの資金繰りのバランスシートを改善しておかないと、財務的に脆弱であるとともに、過去のエンロンのような外資が買収に乗り出してくる恐れも出てくる。このバランスシートを悪化させている最大の原因が原発と送電網に代表される過剰な設備投資であることは、Q218で詳しく説明しました。すると、原発と送電部門を切り離して国に売却すれば、電力会社のバランスシートは劇的に改善され、財務的な不安も買収の恐れも一掃できることになります。

     しかし、逆に見れば、国が原発や送電事業を買い取るということは、国にとってみればそれだけのお金が必要になるということです。買い取るということは、資産も人も(オペレーションスタッフが必要ですから)借金も一緒に買い取るということです。例えば、原発1基2000億円とすると、50基で10兆円、そのうち半分が償却されているとしても5兆円。さらに送電部門の資産は15兆円を下らないでしょう。当然、借金も引き継いで国の借金となる。その20兆円を超えるお金は税金から出るわけですから、結局、我々国民が払わないといけないのです。

     怒り狂う「民意様」の姿が目に浮かびますが、それは、国が本来やるべき事を民間企業に任せて勝手にやらせてきたツケなのです。そして、そんな国会議員を選び続けてきた我々国民の責任だと知るべきなのです。無知ということは結局高くつくのだ、と国民が学ぶよい機会だと思いますが。

     ただし、お金はかかりますがリターンはとれますよ。私の言う通りに図1のように電力事業を再編成すれば、実体マーケットサイズ(電力の総売上)は15兆円くらいになります。これは現状のままですが、実はこの実体市場の周りに必ず金融取引市場、ITソフト市場等の新しい別市場が形成されてくるからです。例えば、電力取引に際してヘッジのための先物、オプション等のデリバティブ市場が発生する。需給状況のリアルタイムモニターや予測のためのITソフトが開発される(小型蓄電池も当然その一つです)・・・等々。この派生市場のサイズは実体市場の3倍以上というのが通説ですから、50兆円くらいの新市場が創出されてくるわけです。対GDP比率で10%以上ですよ。少しはバラ色の未来が見えてくるのではありませんか?

     以上、ずいぶん長々と日本の電力ビジネスのあるべき姿を述べてきましたが、いかがでしょうか? 巷で最近よく言われる「発送配電分離」について、電力事業に関して素人の私が考えてみただけで、これほど大変な要素がいくつも出てくるのです。さらに細かい懸念材料を挙げればまだまだ出てきますが、私の知る限り、これらの問題を全てきちんと認識して発送配電分離を主張している人はほとんどいないのではないでしょうか。

     かく言う私も実行実現性については確信を持つには至っておりませんが、少なくとも私は、今のままで発送配電を分離し自由競争マーケットに放り出せば大変なことになる、ということだけは断言できます。加えて、松笠さんのご質問に対しては、大事なのは東電の国有化云々の話ではない、何のために国有化するのかがポイントなのだ、ということがおわかり願えたと思います。いずれにしろ、日本の電力事業については、かなり大変な話になると思いますが、一刻も早くどこかで決断して(もちろん“わかった上で”ですよ!)、今まで述べてきたように「国と民間の役割」をきちんと線引きする必要がある、と申し上げておきます。

     最後に、脅かすつもりはありませんが、現時点で予想される最悪のシナリオを付言してペンを置きます。それは・・・

    *****

     201×年、日本では原発の運転が全て停止し、その大部分を化石燃料で代替せざるを得なかったため、需給は切迫、停電が相次ぎ、電力料金が急騰。再生エネルギー法による高価な自然エネルギー買い取りもそれに拍車をかけた。そこで、国民とマスコミの電力会社叩きに後押しされ、自由化による電力料金値下げを期待して政府は発送配電分離による電力会社分割を決定。9電力はそれぞれ発電、送電、配電、の民間27社に分割され、電力ビジネスは完全自由化された。ただ、9つの旧電力事業者の脆弱な財務体質を改善するため、自由化後の2年間は9電力の小売価格を高めに固定する暫定移行措置がとられた。

     その年の夏、猛暑のため電力需給は切迫、特に原発依存率の高かった関西で需給は危機的状況に陥る。当然、卸、小売マーケットの電気価格は急騰し、200円/kwhを超えた。しかし、先に高めに設定されたはずの小売価格は25円/kwh。関西電力は電力不足分を200円/kwhでスポット調達して停電の事態を防いだが、その電力は取り決め通り25円/kwhで売らざるを得ず、資金繰りに窮する。

     一方、北陸電力では冷夏のため電力に余裕があったが、送電ハイウェイ不備のため関西には送れず。その結果、関電3社の株価は暴落。そこに中国政府系ファンドによる買いが入り、最終的に筆頭株主は中国政府に。株主総会で遊休の原発11基の中国政府への売却が可決され、中国は海底ケーブルを引き、日本で11原発を再稼働させ中国への送電を計画・・・。

    (この回答は2012年6月2日に収録したものです)