【Q161】投資とリターンの考え方(2009年9月)
都村さんのお話の中に「役人にお金を渡すと公共工事にお金を回して投資効率が悪い」というのがよく出てきますが、公共工事は結局企業にお金が回るので、企業にお金を渡すのと同じことになるのではないでしょうか? もう一つ、役人が天下りなどで多額のお金を得ていますが、これも「お金持ちの個人にお金を渡す方がいい」という話からすると、経済効果という点では悪くないような気がするのですが。何か根本的なところで理解ができてないので、ご説明いただければと思います。(三豊市・公務員)

【A161】

 「投資に対するリターン」というのがよくわからないという話のようですが、別に難しくはない、というより非常に簡単な話です。頭の中がかなりゴチャゴチャになっているようなので、MECEに整理してみましょう。

「利益を生み出す投資」と「借金を生み出す投資」の違い

 こういう話は身近なものに置き換えて考えればわかりやすい。例えば瀬戸大橋を例にとると、瀬戸大橋は1兆円を投資した案件ですが、この「1兆円の投資」というのを「役人が投資する」「企業が投資する」という2つのパターンに分けて考えて下さい。まずA案は、1兆円を役人に渡して公共投資で瀬戸大橋を作る。すると、まず民間の建設会社に1兆円の発注が行きますから、企業はその年は1兆円の売上が立ち、かなりの利益が残ります。しかしその後、国が瀬戸大橋を運営してどんどん赤字が膨らんでいくわけですね。6%で借金(起債)して1%でしか回らないような効率の悪い投資ですから当然の結果で、結局その赤字は国民がかぶることになるわけです。

 次にB案は、同じ民間の建設会社に減税などで1兆円を渡す。要するに企業に「好きに投資してください」と言うわけです。国としてはどちらも1兆円を使うわけですから、同じことですね。すると企業は何に投資するか? ちゃんとした企業なら、自ら瀬戸大橋に投資するようなバカなことはしません。普通の民間企業なら赤字を出し続けることが明らかな事業に投資するはずがない(そんなことをすれば株主がきちんとチェックしていますから経営陣は即刻クビです)。必ず、リターンの取れそうな効率のいい案件に投資をしますから、うまくいけば投資したお金はDCF10%とかで回り始めるわけです。一方は1兆円の投資が毎年どんどん赤字を生み出す、もう一方は同じ1兆円の投資が毎年さらに利益を生み出す。どちらの投資がいいかは火を見るより明らかでしょう。

ビジネス音痴に投資判断をさせてはいけない

 要するに、公共投資も企業減税も企業が一時的に潤うところまでは同じですが、その後が全く違うのです。もちろん公共投資にも数少ないながらリターンの高いものはあるはずですから、すべての公共投資がダメだという話ではありません。しかし、道路や橋やハコモノといった公共投資は、昭和30年代頃の高度成長期ならいざ知らず、今やほとんどリターンがとれないものばかりです。しかも悪いことに官僚というのは基本的にビジネス音痴で、投資に対する長期のリターンなど考えているとはとても思えない。

 よく「官僚の中にも優秀な人がいるから、そういう人は民間で活用するべきだ」と言う人がいますが(天下り容認派に多いのですが)、断言しますが「官僚が優秀だ」というのは全くの幻想だと知ってください。確かに他人のお金を使うことと責任を逃れることに関しては天才的に優秀だと思いますが、これではビジネスマンとしては失格なのは明らかでしょう。少なくとも官僚を10年以上やった人は、民間でビジネスマンとして全く使い物にならないと思った方がいい。ビジネスと無縁の、競争のない環境の中に10年間も置かれれば、ビジネスに役立つ能力がどんどん退化してしまうからです。事実、官僚が引退してビジネスマンとして成功したという例は見たことがありません(せいぜい大学教授になるくらいでしょうが、それは大学教授がいかにビジネスに役に立たないかという証明でもあります)。もし使えるとすれば、まだ官僚風土に染まっていない若い人だけでしょうが、私のマッキンゼーでの経験から言えばそれでもかなり鍛え直さないと使えるようにはなりません。ということは、官僚に巨額のお金の使い途を決めさせることがいかに恐ろしいことか、もうおわかりでしょう。

 そう考えると、もう一つのご質問の「官僚個人にお金を渡すこと」の非効率もおわかり頂けると思います。私は「経済を活性化させるには大企業とお金持ちに税金を回すのが筋だ」と申し上げましたが(Q160参照)、私の言う「お金持ち」というのは「リターンの大きいものに投資をする人」という意味です。大くくりにすれば、彼らはリターンの大きいものに投資をしてきたからお金持ちになれたのですから、個人の中では「お金持ち」が一番有効なお金の使い方をするだろうということです。従って、天下りを繰り返して何億円も手にしたような官僚は私の言う「お金持ち」ではない。確かにもらったお金の幾分かは消費に回るでしょうが、それだけのことです。残りは貯蓄に回り…言わば瀬戸大橋への公共投資と同じようなものです。

自分で考えなければ滅んでいくだけだ

 以上、投資とリターンの考え方を簡単に申し上げましたが、非常にシンプルで、決して難しい話ではないことがおわかり頂けたと思います。自分の身に置き換えて少し考えればすぐわかる話です。残念ながら今の日本には、自分で考えることを放棄してすぐ他人に答を聞こうとする人たちが非常に多くなっています。私はそれを「答え教えて症候群」と呼んでいますが(『なんしょんな!香川PART3』教育問題への提言参照)、わからない時に「わからない」と思考放棄せずに、自分のわかる話に置き換えてゆっくりと考える習慣を付けるべきだと申し上げておきます。人間というのは考える能力に大して差はありません。要するにどれだけ時間を使って一生懸命考えたか、でアウトプットに差が付いてくるのです。考えない人ばかりになると、一体誰が富を生み出すのでしょう? あっという間に社会は滅んでいきます。また、考えもしない人が一生懸命考えて付加価値を出した人から「配分をよこせ」と言うのも、考えた人に対するある種の冒涜だと思います。「あれはどうだ?」「これはどうだ?」と誰かに答を聞く前に、ぜひ自分で一生懸命考えてみてください。そうやってみんなが少しずつレベルを上げていかない限り社会は良くなっていかない、というのが私の意見です。